― ベージュの報告 B-001 ―
金の長女は送られてきた報告書に目を通していた。
ほとんどは外に出ている兄弟達からの報告書だ。

青の次女は『停滞中』とのことだった。
彼女の出向いた泡はまだ初期状態だ。その段階の泡はそう大きく変化することはない。そんなものだろう。
ただ、あの泡は小さいが量がある。弾ければ連鎖的に消えていく。終わりまであまり時間はない。
それも踏まえて彼女を担当にした。程なく帰ってくるだろう。


蜜柑の妹と赤の弟が関わっている羊の国は、少々厄介な方に向かっているようだ。
最初こそ蜜柑の子から赤の子のいたずら写真を送られてきていたが……途中からぱたりと来なくなった。
あの子の猫ごと影響を受けたとすると、本体が歪みに当てられたのかもしれない。
容易い泡だったはずだ。経験を積むのにちょうどいい案件だったから、二人で行かせたのだ。
連絡がないならこちらから様子を見に行くしかないのだが……。

人手が足りない。

管理職の抱える問題はどこも同じだ。

人手があればとはいえ増やすのも簡単じゃない。



こういう時、ベージュの弟がいてくれれば――。

優秀だった弟を思い、頭を抱える。


順番で言えば真紅の妹より後、赤の弟よりは上になる。
下や上でないのが我々のややこしいところだ。


彼の優秀さは判断の早さにあった。
青は何かあっても力技で対応できる。
蜜柑は時間はかかるが情報収集は人一倍。
赤は足りないところに回ってフォローする。

ベージュは蜜柑の情報から最短で解決できるルートを見出し、青を置く最良の場所を見つけ、最優先で赤に当たらせる所を的確に見極めた。
思考のリソースを担ってくれた分、金は行動を早められた。

ベージュが隣に居るだけで、どれ程助かっていたことか。
色の薄い子が居着かないのは仕方のないことなのか。

嘆いても、いないものはどうしようもない。


それより目下急がなければならないのは羊の国だ。
こちらから蜜柑と赤の子へ呼びかけているが応答がない。
干渉を最小限に抑える為、通常連絡には蝶を使っているが、当然できることは少ない。
黒の長兄に烏の貸し出しを依頼する。

烏達はすぐに届いた。
三つ目烏と三羽烏だ。

三つ目を蜜柑へ、三羽にWreath(リース)と守り石を持たせ赤の子へとそれぞれ飛ばす。

あちらの様子がわかるまでは、しばらくかかるだろう。
ふと、確か似たような案件をベージュの子が受け持っていたことを思い出す。

その時の報告書を闇紫の妹に頼み……渡された書類の分厚さを見て、長女は露骨に眉をひそめた。
闇紫は一番上に乗せた冊子を渡す。
<必要なこと(あらすじ)>はこれにまとめられている、と。
『こんなこともあろうかと』と笑む彼が目に浮かぶ。

長女は几帳面にまとめられた資料に目を走らせる。
かつてベージュの弟が担当した泡の一つ。

『ここには“羊の皮を被った狼”はいない』
その泡は誰が見た夢なのか。

“動物モドキ”達は、モドキになってからコミュニティの在り方を変えた。
“動物”になることを恐れながら日々を生きている。

その<泡(世界)>の名は、『ドッペルペットの悪夢』。